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2023.12 - みさと
2023/12/04 (Mon) 21:55:15
阿部昭「あこがれ」
少年は中学生。あこがれの女の子は、東京から疎開してきた子で、年上の高校生、でもお父さんを戦争で亡くしています。少年は、江ノ電が走っている沿線に住んでいて、近所の女の子と通学の時、お互い別々のホームにいるのを見ていました。どこかで何となく知り合えたのか、会話をすることもあり、朝、駅までの道を同じように急ぐこともあったようです。
【この少年は、少女が毎朝同じ時刻に家を出てくることを知っていて、朝食を摂りながら何度も時計を見て、狙った時刻ちょうどに家を出た。
少年の読みどおり少女に会うことができたが・・・・・。】
その朝、彼女がちょうど門から出てきたところへ少年が行った。少年の心はおどった。まだ二十メートルもはなれていた。その二十メートルを彼はうつむいて歩いた。
彼女は門のそばの石垣にもたれるようにしていた。――頭をかしげて、年上らしい落ち着いた目をして。
「おはよう。」
彼女のほうから大きな声でいった。
少年はもっと近づいてから、それも小さな声でしかいえなかった。彼は何かいわれてもただおどおどするだけだった。そしてひどく急ぎ足になった。
彼女は小走りしながら腕時計を見た。
「何分の電車に乗るの? おくれそう?」
「さあ、どうかな。」
彼は逃げるようにして、わき目もふらずにとっとと歩いた。
「じゃあ走れば。いっしょに走ってあげる。」
そこで彼は走りだした。これはおかしなことになったと思いながら。